「貴女にとって、マリア様は大切な家族だったんです。六年間、大事に慈しんできた存在なんです。そんな人をいきなり失って、寂しくないはずがありません」


 よしよし、と頭を撫でられ、抱き締められる。


(わたしは――――寂しかった)


 マリアが居なくなってから一度だって『寂しい』なんて単語が頭を過ぎったことはない。

 だけどわたしは、神官様の言う通り、寂しかったのだと思う。

 深い森の中で、誰にも忘れられ、死んだように一人で暮らすことが。
 寂しくて――――
 そして、堪らなく怖かった。


 だけど、そんな気持ちを認められるはずがない。

 だってわたしは。
 わたしは――――


「どれだけ強がってみたところで、人の心には限界があります。貴女はご自分で思うほど、強い人じゃありません。強くあらねばと思う必要もありません。
誰かに縋って良いんです。頼って良いんです。泣いても、嫌がっても、叫んでも、良いんですよ」


『お前は強いから』


 頭の中で、いつかの、誰かの言葉が木霊する。


『だから、俺が居なくても大丈夫だよ』


 それはまるで、呪いみたいな言葉だった。

 そうして、その言葉通り、わたしは再び一人になる。

 大丈夫だって思わないと、自分を保てなかった。

 強くならなきゃ。
 だってまた、一人ぼっちになってしまうのだから。
 みんな、わたしを置いていってしまうんだから。

 簡単に捨ててしまえる存在だから。何の価値もないんだから。
 それでも、現世では生きていけるようにならなきゃって。


「うっ……うぅ…………」


 嗚咽が漏れる。
 神官様が、これまで必死に保ってきた『わたし』という存在を否定する。

 だけど何故だろう。不思議とそれが嫌ではなかった。


「ジャンヌ殿、貴女は素晴らしい女性です。どうか自信を持って。貴女らしく生きてください」


 疲れた心に神官様の言葉が染みる。

 絶対、逃げてやるって思っていたのに。


「うん」


 気づいたらわたしは、そんな風に応えていた。