「疲れたでしょう? 昼食はこの部屋で一緒にとりましょうね?」


 神官様がわたしを撫でる。まるで猫でも愛でるみたいに、よしよし、って何度も。
 やめて――――そう言いたいのに、聖力でも流し込まれているんだろうか。疲れた心と体に不思議と染み込んで、振り払うことができない。


「いらない。食欲ない。疲れたし、もう眠りたい」


 かろうじてそう言い返す。
 だけど、悲しいかな。目はランランと冴えている。身体も心もヘトヘトなのに、不思議なことだ。


「食べなきゃダメですよ。食べることは生きること。人間の三大欲求の一つです。
それに、労働のあとの食事は、一層美味しく感じられるものですから」

「そうだよ、ジャンヌさん。お昼ごはん、とっても美味しいんだよ。一緒にご飯食べよ!
あっ、そうだ! あたし、今日のご飯はなにか見てくるね! ジャンヌさんの好物かもしれないし!」


 パタパタとマリアの足音が聞こえる。わたしは静かに目を瞑った。


「人々の前に立ってみて、どうでしたか?」

「……どうもこうもないわ。疲れただけ」

「またまた〜〜。それだけじゃないでしょう?」


 神官様がわたしの上にのしかかる。わたしはそっと唇を尖らせた。


「何なんでしょうね、あの人達……ただ手を握っただけなのに。なんでみんな、あんなに喜ぶんですか?」


 目をつぶると浮かび上がる、人々の笑顔。
 さっきからずっと、心の中がモヤモヤしている。

 わたしなんて、何の価値もない人間なのに。
 ずぼらで、口が悪くて、子供の面倒もろくにみれない。何をするにも『嫌だ』とか『面倒くさい』とか、『意味がない』って思っている、見てくれだけ良い人間なのに、どうして――――。