「詐欺だわ……」


 普段あれ程グイグイ来るくせに、今のあの男はどこか近寄りがたく、けれど手を伸ばして縋りたくなるような雰囲気を醸し出している。
 これぞ神官。
 どこからどう見ても正統派神官だ。


(何あれ? 別人? どうして普段からああしてられないんだろう?)


 あのぐらいの距離感なら、わたしだってそこまで拒否感を抱かないだろう。おまけに今は、いつもの胡散臭い笑顔じゃない。


(いや、寧ろ今でしょう⁉)


 こういうときこそニコニコと愛想を振りまくべきじゃないの? 鬱陶しいほどガツガツと積極的にコミュニケーションとるべきじゃない? あの女の子たちは、神官様に会いに来たんでしょう? わたしと違って絶対喜ぶじゃん? 笑顔の使い所、間違い過ぎじゃない⁉



「セドリック様も、以前より大分柔らかくなられて良かったわ」

「え、あれで?」


 おばあさんのつぶやきに、ついつい反応してしまう。
 とっくに二十秒が経過しているけど、今はそれどころではない。もしかしたら、神官様の弱みを握れるかもしれない――――わたしはそっと身を乗り出す。


「ええ。あの方が最初に神殿にいらっしゃった頃は、まだマリア様ぐらいの大きさでね? 神様みたいに人間離れした美しい少年だったの。 だけど、今とは違ってちっとも笑わない、とても冷たいお方でね?」

「へぇ……そうだったんですか」