そりゃあ、時間は限られているし? どっかで線引は必要だろうけど、裏事情を知ると何とも言えない気持ちになる。


「皆さん、その二十秒の間に顔や名前を覚えてもらおうと、ありとあらゆる工夫をされるんです。見ていて涙が溢れるほど。本当にありがたいことです」


 神官様が目元を拭う仕草をする。
 白々しい。思わずケッと笑ってしまった。


(まぁ、あれだ。神社でお参りをするみたいな感覚なのかな)


 聖地巡礼。行くだけで元気になれるみたいな。
 対面時間が短いのも織り込み済みだし、文句は出ないってことなのだろう。


「でも、待って。わたし、神聖力なんて持ってませんけど?」


 つまり、わたしと話したところで、何のご利益もない。新しい神官みたいに紹介されてたけど、これでは詐欺じゃないか。


「そんなことはありません。元々、すべての人間にある程度の神聖力が備わっているのですよ。聖女であるマリア様は、特別な力をお持ちですが、それ以外の神官は、皆貴女と土台は同じです」

「いや、そうかもしれないけど、普通は神官ってある程度修行を積むとか、信心深いとか、そういう人がなるもので」

「ほらほら、参拝者の方がいらっしゃいましたよ! 仕事仕事」


 神官様が無理やり話を終わらせる。都合が悪くなったらしい。
 ため息を一つ、わたしはそっと前を向いた。