「先程は失礼致しました。あまりの人の多さに驚き、体勢を崩してしまって……」


 こうなったら、徹底的に猫を被ってやる。じゃないと、神官様のファンに何されるかわからない! 今ここでこの男を罵ったり、被害者ぶったりしたら、火まつりにされても文句は言えない。そういう強い気を感じる。


「改めまして、おはようございます。ジャンヌと申します。皆様、どうぞ、よろしくお願いいたします」


 至上命題:人畜無害な女性を演じること。

 清楚で、清らかで、色恋とは無縁の聖女を演じる。

 わたしの今後の身の安全のために。
 神官様から逃れられる、幸せな未来のために!


 野太い歓声が上がる。彼等を遠目に見つめつつ、神官様に繋がれたままの手を必死で引く。残念ながらびくともしない。来殿者からは見えない位置だけど、物凄く不快だ。


「本当に、よろしくお願いしますね、ジャンヌ殿」

(誰がよろしくするもんか!)


 心のなかで舌を出しつつ、わたしは神殿(=神官様)から逃亡することを決意するのだった。