「は⁉」


 一体この人は何を言ってるの! 馬鹿じゃないの⁉
 っていうか、神殿に来て以降、性格変わってません⁉ 
 元々強引な人だけど、変な方向に引っ張られてばかり。これじゃマジで身がもたない。


「一度は『やる』と言ったのでしょう?」

「いや、やるとは言ってない。仮に言ったとしても、貴方に言わされただけで……」

「言わされたとしても、約束は約束。逃しませんよ」


 いつになく低い声音で囁かれ、背筋がぶるりと震える。腰を抱かれ、頬を撫でられ、変な汗が背中を濡らす。
 どういう状況よ、これ。しかも、めっちゃ大勢に見られてるし。


「よく考えてみてください。貴方が少し笑顔を振りまくだけで、沢山の人が幸せになれるんです。そして、私からのキスも回避できる。素晴らしい提案でしょう?」

「わかったから。……お願いだから、もう喋らないで」


 喋ったら唇が触れちゃうから。っていうか、わたしの処理能力を超えてるから!
 今はもう、黙って言うことを聞くのが一番だ。


「――――貴女はもっと、自分の価値を知るべきなんです」

「…………え?」


 蚊の鳴くようなか細い声。聞き間違いだろうか。
 わけが分からぬまま、神官様の手を借り、わたしはむくりと起き上がる。神官様はニコリと微笑み、わたしを皆の前に立たせる。

 深呼吸を一つ、歯を食いしばって、わたしは無理やり微笑んだ。