(ここは…………そうだ! マリアが住んでる神殿)


 昨夜は昔話を読み聞かせながら、マリアと二人で眠りについた。ふわふわの天然湯たんぽを抱き込んで、えらく熟睡できたという感覚はある。
 だけど、さっきのくぐもった声は、絶対にマリアのものじゃない。


(っていうかあれ、男の声!)


 勢いよく振り向けば、無駄に整った美しい彫刻みたいな顔が視界に飛び込んできた。朝から揚げ物を食べたみたいな、ものすごい胸焼けのするキラキラしさだ。

 誰あろう、神官様である。


「な……な、な…………!」


 途端、湧き上がる怒りの感情。起き上がろうにも身体をギュッと抱きしめられていて、身動きが取れない。
 しかし、本気で怒っているときは、案外言葉が出てこないものらしい。唇をわななかせつつ、わたしはその場で硬直する。


「んん……」


 その時、もう一度神官様が声を上げた。随分とまぁ気持ちの良さげな声だ。次いで首筋に柔らかな感触が触れる。温かく、少し湿った何か。それが何なのかなんて考えたくもない。
 思わず肘鉄を入れたら、ぐえっと大きな悲鳴が上がった。