「仕方ないなぁ……」


 呟きながら絵本を開く。

 どうやら本をチョイスしたのは神殿側の人間らしい。
 わたしじゃ絶対買わないような『聖女の奇跡』だとか『神の誕生』だとか、聖書的チックで真面目で綺麗な物語だ。


「なになに? 昔々、あるところに、心優しく美しい少女が居ました。少女は神がこの世に遣わした聖女で、数々の奇跡を起こすことが出来ました――――っと」


 なに? 聖女ってこの世界じゃそんなメジャーな存在なの?
 お伽話のお姫様みたいな?
 前世においてイエスキリストは、親が余程信心深くない限り、子どもには無縁の代物だと思ってたけど。


「聖女は人々の傷を癒し、飢えを満たし、深い慈愛の心で精神に安らぎを与え、幸せを届けることが出来ます」

「ジャンヌさん、これ、マリアなんだって! マリアがするんだって!」

「ああ、はいはい。そうね」


 何という刷り込み教育。わたしみたいな擦れた大人からすれば笑えてしまうけど……まあ、魔法の存在する世界だし、強ち間違ってはいないのだろう。