用意された寝具は大きくて、とてもフカフカだった。
 前世でいう、旅先での非日常みたいな。ホテルや旅館で一流のおもてなしを受けているかのようなラグジュアリー感。お風呂も広くて豪華だったし、かなり快適だ。


(悪くないなぁ)


 上げ膳に据え膳。
 お部屋はとても綺麗だし、他の家事のための労力も不要だし。

 まさに旅行気分。短期間なら悪くないかも、なんて思ってしまう。


「ジャンヌさん、これ読んで!」


 ぼふんと音を立ててベッドが揺れる。
 見れば、マリアが瞳を輝かせつつ、絵本を胸に抱えていた。


「もう……あんたの部屋は隣でしょう?」


 広々としたベッドが一気に狭くなる。枕のあたりまで這い上がりながら、マリアはわたしに縋りついた。


「本も優しい侍女のお姉さんに読んでもらった方が良いと思うよ?」


 神殿に仕えているだけあって、彼女達の慈愛の精神は相当なもの。
 わたしに面倒くさそうに読まれるより、そっちの方が余程良いと思うんだけど。


「だってーー、ジャンヌさんに読んで欲しいんだもん! 読んで! 読んで!」


 全く。マリアはこうなったらしつこい。
 梃子でもベッドを動かないし、何ならこのまま寝るつもりに違いない。