「ほら、そんな顔をしていたら幸せが逃げてしまいますよ」


 神官様はそう言って、わたしの額を小突く。それから止める間もなく、わたしの頭をそっと撫でた。


「私はここで退室しますから、ジャンヌ殿はきちんと食事を楽しんでください。食べる喜びを噛みしめて。明日の朝、また一緒に食事をしましょう。良いですね?」


 普段とは違った穏やかな声音。
 ややして、扉が静かに閉じる音が聞こえた。


「ジャンヌさん……」


 マリアがわたしを見上げる。
 ああ、ほらまただ。こんな小さな子どもに気を遣わせるなんて最低。だからわたしとは関わらない方が良いのに。


「ジャンヌさん、一緒にご飯食べよ?」


 それでも、マリアは直向きに笑う。スプーンに料理を乗せ、困ったように首を傾げながら。


「そうだね」


 口を開け、食べ物をゆっくり咀嚼する。

 温かい。
 温かくて、美味しくて、それから優しい。


「美味しいよ」


 久方ぶりに摂る食事。
 マリアは目を細めながら、嬉しそうに笑った。