「良い顔ですねぇ、ジャンヌ殿。ここでの生活が楽しみになって来たでしょう?」

「――――ええ、そうですね。あなたさえ居なければ!」


 くそう、良い気分だったのに! 胸焼けしちゃったじゃない! 
 向かいの席を陣取った神官様に、わたしは眉間に皺を寄せる。


「ジャンヌさん、セドリックは優しいよ? マリアのお願い、たくさん叶えてくれるんだよ?」


 マリアはそう言って、短い脚をブラブラさせた。
 神官様が何とも嬉しそうにどや顔を浮かべている。わたしは無理やり笑みを浮かべた。


「良い? マリア、覚えておきなさい。願い事を叶える人が必ずしも優しいってわけじゃないのよ? 人間っていうのは時に我慢も必要だし、自分自身で願いを叶える努力だって必要なの。何でもかんでも全部やってあげることが優しさとは限らないんだから」


 世間一般の優しさの定義はさておき、少なくともわたしはそう信じている。そりゃあ、自分の意向に合わせてもらえた方が嬉しいかもしれないけど、本当の意味で本人のためになるかと言えば、そうじゃない場合も多い。聖女だからと甘やかされてばかりじゃ碌な大人にならないんだから。


「ふぅん……そっか。そうだね! ジャンヌさんもとっても優しいもんね!」

「は? いや、どうしてそうなるのよ」


 これだから子どもは意味が分からない。わたしの中に優しさは皆無。ただ自分の都合で動いているってだけだもの。