「良かったね、マリア。これからはいっぱい贅沢できるよ。お菓子も洋服も、このお兄さんにたくさん買ってもらいな」


 そう口にし、ピンク色の髪をわしゃわしゃと撫でる。


「え……? でも、ジャンヌさんも一緒だよね?」


 マリアが尋ねた。膝をギュッと抱き締められ、わたしは首を横に振る。


「わたしは一緒には行かないよ。っていうか行けない。そうでしょ、神官さん?」

「……ええ。お連れするのは聖女様おひとり。保護者の方をお連れした前例はございませんので」

「やだ!」


 マリアはそう言って瞳を潤ませる。思わず舌打ちをしそうになった。


「ジャンヌさんと一緒が良い! ジャンヌさんと一緒じゃなきゃ嫌!」

「ワガママ言うな! 大体わたしは、あんたの母親じゃないし。面倒見る理由も無いって、いつも言ってるでしょう?」


 酷い女。我ながらそんなことを思う。

 事実、六年前わたしはマリアを捨てようとした。
 神殿から追い返されて、元々捨ててあった場所にマリアを戻そうって思っていたんだもの。


「こんな女の所に居るより、そこのイケメンに育ててもらった方がよっぽど良いよ。幸せになりな、マリア」


 そう言ってわたしは、マリアを神官に押し付ける。それからバタンと扉を閉めた。