「どうされました?」

「なんだか長く滞在するのが前提のような口ぶりですけど、わたし、遅くとも夜には家に帰りますからね?」

「ええ!?」


 叫んだのはマリアだった。悲し気に眉を寄せ、わたしのことを見上げている。


「そんなぁ……セドリックが『ジャンヌさんはあたしと一緒に神殿に住んでくれる』って約束してくれたのに」

「はぁ!?」


 この男、勝手になんてことを約束しているんだ! 相手は子どもだぞ。約束は『約束』で、無慈悲に破られることなんてなくて。裏切られるなんて想像もしない生き物だというのに。


「ジャンヌ殿……」


 泣き出してしまったマリアを前に、神官様が何とも言えない表情でわたしを見遣る。いやいや、悪いのはわたしじゃないし。そんなこちらの良心に訴えかけるような表情をする前に、言うことがあるでしょう?


「ジャンヌさんがここに居てくれないなら、あたしも帰る。ジャンヌさんと一緒にお家に帰る」

「マリア様! それは……!」


 神官様が悲痛な声を上げる。侍女達も困惑を隠せていない。わたしは小さくため息を吐いた。