言葉を失い、しばし呆然と立ち尽くす。
 足元には魔方陣、開けた視界に燦々と光が射し込む。真っ白でデカい柱。ピカピカに磨き上げられた大理石でできた(っぽい)床。どうやらわたしは今、歴史の教科書で見た何たら宮殿とか、何たら神殿的な建物の中に居るらしい。


「いやぁ、上手くいきましたねぇ」


 隣から聞こえてくる上機嫌な声音。イラッとしつつ視線を遣れば、神官様の満面の笑みが目に入る。
 背後には自称天才魔法使いのサイリック。二人はわたしを間に挟み、意味ありげな視線を交わしている。

 なるほど、理解した。
 状況から鑑みるに、わたしは神官様が拠点としている神殿へと連れてこられてしまったようだ。


「上手くいきましたねぇ、じゃないわ!」


 この男、一発ぐらい殴ってやらないと気が済まない。勢いに任せ、手を振り上げようとするも、思ったように動かない。
 背筋が凍る。
 何故か。

 視線を落とすと、わたしの手のひらは、この腹立たしい男に握られてしまっていた。