「ちょっと待って下さい、ジャンヌ殿! 貴女、今まで私の名前を呼んでくださったことがありませんよね? どうしてサイリックの名前は呼ぶのですか?」

「そんなの、尊敬度合いの違いに決まっているでしょう?」

「じゃあじゃあ、ジャンヌ殿は私のことは尊敬してくださらないと」

「当たり前でしょう?」


 全く、何を分かり切ったことを……呆れて言葉も出ない。


「残念だなぁ、セドリック。お前でもフラれることがあるのか」


 サイリック様はクックッと喉を鳴らしつつ、神官様が持って来たバスケットを腕に持つ。


「未だフラれていません。これからゆっくりと口説き落とすつもりなんですから、サイリックは黙っていてください」

「いや、冗談キツイです。ありえませんて」


 本気で嫌悪感しか湧かないし、恋愛絡みの冗談だけは勘弁してほしい。そもそもわたしは人と関わりたくないんだから。


「だ、そうだぞ? セドリック」


 そう言ってサイリック様はわたしと神官様の肩をポンと叩く。
 だけどその途端、ブゥンと大きな音を立てて身体が大きく震えだす。足元に眩い光――――魔方陣が見え、わたしは思わず目を見開いた。


「え? ちょっ……!」


 見えない力に身体が大きく引っ張られる。
 刹那。
 目を開けたら、そこはもう、わたしの家の中じゃなかった。