「家事があまり好きじゃない貴女のために、きちんと侍女を雇います。シェフは貴女好みの食事を作れる人間を用意しますが、時々はジャンヌにもキッチンに立っていただけると嬉しいです。面倒くさいと言いながら、私とマリア様が大好きな温かい料理を作ってください。私と、マリア様と、三人で一緒に料理を作りましょう。
それから、警備の面はご安心ください。マリア様のために腕の立つ護衛を複数用意します。けれど、神殿のように仰々しくなく――――それでいて温かな家庭の雰囲気を大事にしたいと思っています」


 セドリックはそう言って、わたしの指にダイヤモンドの指輪をはめる。前世でもらったものよりも、何倍も大きくて美しい宝石だ。
 別に、比べるようなことじゃないんだけど。
 それでも以前には得られなかった幸せが、手の届くところに――――すぐ目の前に存在する。そう思うと、涙が自然とこみ上げてきた。


「ついこの間『現在を積み重ねていく』って言ったばかりなのに……」


 だけど、一度結婚を約束して、それが破談になったわたしとしては、簡単に頷くわけにはいかない。もう少し、互いを見定めるための時間を持つべきじゃないか――――そう言い訳したくなる。


「ええ、ジャンヌの仰るとおりです。
けれど、どうせ同じことをするならば、その関係は恋人でも夫婦でも構わない――――そうは思いませんか?」


 セドリックは言葉巧みに、わたしの同意を引き出していく。うっと口をつぐんだわたしに、彼はなおも畳み掛けた。


「私は貴女と家族になりたいんです」