――――今日、マリアはこの国の聖女として、正式に就任する。


 国王や王太子、大臣や貴族、神殿関係者たちが見守る中、聖女としての任務を与えられ、その身と心を人々のために尽くすことを宣誓する。


 正直言って『これで本当に良いのかな?』って気持ちは、今でもゼロになったわけじゃない。

 だけど、これがマリアのやりたいことだって言うんだもの。親としては応援してあげなきゃいけない、サポートしてやらなきゃいけないって思うのだ。


『あたしね、色んなところに行って、たくさんの人に会って、幸せになってもらうの! それから卵焼きや味噌汁、カレーライスの良さを知ってもらいたいんだ! そしたら、お母さんがたくさん頑張らなくても、材料が簡単に手に入るようになるでしょう?』


 マリアはそう言ってニコリと笑う。
 最初は『なにそれ?』って思ったんだけど、この国で生まれて、この国で育ったマリアが、和食の普及に燃える様子は見ていてとても微笑ましい。わたしの前世も案外捨てたもんじゃないって、素直にそう思えるから。


 だけど、今は良くても、いつかマリアにとって聖女の役目が重くなったり、嫌になったその時のために、わたしはわたしにできることをしていきたい。


 幸い、わたしにはセドリックが居て、わたしの理想(という名の前世の記憶)を再現してくれる人や、手伝ってくれる人がたくさん居る。


 聖女はあくまで平和と幸せの象徴――――ただそこに存在し、笑っていたらそれで良い――――そんな国にできるように、頑張ってみようと思っている。マリアが宣誓をするのに合わせて、わたしは密かにそう誓った。