マリアの実母が現れて二週間が過ぎた。


 大きな窓から燦々と降り注ぐ美しい朝日。風に揺れるレースのカーテンに新緑の匂い。
 湯浴みの後の爽やかな石鹸の香りに、いつもよりも凛と張り詰めたどこか厳かな雰囲気。

 真っ白なシルクのドレスに、白いレースベール、神秘的な宝石が埋め込まれたヘッドティカを額に着けて、マリアがくるりとターンをした。


「どう、お母さん? 似合う? 似合う?」

「うん、すごく似合ってるよ。絵本の中のお姫様よりずっと可愛い」

「やったーー!」


 こんな雰囲気の中でも無邪気な顔をしてマリアは笑う。わたしは思わず唇を綻ばせた。


 あの日以降、わたしたちは母娘として生活をしている。
 はじめは少しぐらいぎこちなくなるかなぁと思っていたんだけど、全くそんなことはなく。寧ろ、これまで互いに遠慮していた部分を思う存分ぶつけあって、すごくしっくりきている。そう感じているのはわたしだけじゃなく、マリアも同じ気持ちだろう。


「マリア様の準備は整いましたか?」


 その時、他の神官たちとともに、セドリックがわたしたちの部屋にやってきた。
 真新しい神官服に身を包み、いつもよりもどこか近寄りがたい、神聖な雰囲気だ。


「おまたせ。今終わったところ」

「それは良かった。
――――それではマリア様、参りましょうか」

「はい」


 そう返事をしたマリアはもう、普通の六歳児の表情ではなくなっていた。