「お母さん」


 マリアの言葉が、声が、耳元でとても優しく響く。嗚咽混じりだったけど間違いない。マリアはわたしのことを『お母さん』と呼んでくれた。


『お母さん』


 ――――ああ、そうか。
 わたしが気づかないようにしていただけで、マリアはもうずっと、わたしのことをそう呼んでくれていたのかもしれない。

 赤ちゃんだったときも、言葉を喋れるようになって以降も。
 捻くれ者のわたしが怒りださないよう、眠っているときや意識が薄れているときにこっそりと。何度も何度も、そう呼んでくれていたのかもしれない。


「マリア――――あなたはわたしの、大事な娘だよ」


 誰がなんて言おうと、わたしはマリアの母親で、マリアはわたしの娘だ。

 もう絶対、二度と迷いはしない。
 いつか離れる日のことなんて考えないし、マリアのことは、絶対にわたしが幸せにする。

 決意を新たに抱きしめれば、マリアはとても嬉しそうに笑った。