「バッカじゃないの! 全然、ニヤけてなんかないし」

「はいはい。そういうことにしておきます。ジャンヌ殿は本当に素直じゃありませんね。可愛いです」

「息を吸うみたいに可愛いとか言うな! この、誑し神官!」


 胸のあたりが怒りでモヤモヤしている。それなのに、この男はわたしとは正反対、物凄く楽しそうだ。
 何なんだこの男。Мなの? 変態なの? 普段チヤホヤされ過ぎて、頭がおかしくなったんじゃなかろうか。この世界の男は普通、言い返されて喜ばないでしょうに。


「ねえ、ジャンヌ殿。一体いつになったら私のことを『セドリック』って名前を呼んでくれるんですか?」

「呼びません。覚える気だってありません」

「いやいや、さすがにもう覚えましたよね? 毎回お教えしてるんですから」


 そう言って神官は、わたしの両手をギュッと握る。無駄にキラキラした眼差しだ。背筋がゾワゾワ震え、胸焼けがする。気づいたらわたしは神官の脛を蹴とばしていた。