「マリア!」


 と、その時、若い女性の甲高い声が、わたしの隣から聞こえてきた。

 聖女であるマリアを呼び捨てにする人間はわたしぐらいのもの。驚きに目を見開いていたら、女性は頭をすっぽりと覆っていたスカーフを取り去り、桃色の髪をあらわにした。


「あっ!」

 
 あれは――――マリアの本当の母親だ。髪を隠していたから、騎士たちも存在に気づかなかったのだろう。
 どんなに警戒していても、気づかなかったのなら仕方がない。分かっている。だけど、わたしは困惑せずにはいられなかった。


「どなたですか?」


 マリアが尋ねる。キョトンと瞳を丸くして。
 マリアの母親は涙を流しながら、ひしっとマリアに抱きついた。


「お母さんよ! 私があなたの、本当のお母さんなの」


 マリアの母親が言う。
 今日は傍らにマリアの双子の姉は居ないけれど、二人がそっくりなことは誰が見ても分かる。おそらく、マリア自身も気づいただろう。

 わたしは女性を止めようと走って――――だけど、すんでのところで止めた。