「――――ねえ、久しぶりに桃太郎の話をしようか?」

「うん! マリア、桃太郎大好き! ――――昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました」

「って、え? わたしじゃなくて、マリアが話すの?」

「うん! たまには良いでしょう?」


 マリアはクスクス笑いながら、ゆっくりと目を瞑った。


「おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に出かけました。おばあさんが洗濯をしていると、川の向こうから大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。おばあさんはその桃を、家に持ち帰って、おじいさんと一緒に食べることにしました」


 スラスラと、まるでその場に居合わせたかのように、マリアは物語を暗唱する。


「ところが、桃を割ってみると、中から元気な男の子の赤ちゃんが出てきました。
おじいさんとおばあさんは驚きましたが、その男の子を育てることにしました――――あたしね、このお話のおじいさんとおばあさんが大好きなの!」

「そうなの?」

「うん! だって、いきなり現れた赤ん坊の桃太郎を引き取って、大人になるまで育ててくれたんだもん!」


 楽しげなマリアの笑い声を聞きつつ、わたしは彼女の頭を撫でる。