「ジャンヌ。
私は貴女とマリア様を、本当の母娘だと思っています」


 セドリックが言う。その途端、目頭がぐっと熱くなった。


「貴女がマリア様と一線を引いて接していたのは知っています。けれどそれは、貴女自身が――――何よりマリア様が、不要に傷つかないようにという想いからでしょう?」

「……うん」


 いつかわたしは、マリアを手放す日が来るって――――手放したほうが良いって思っていた。ずぼらなわたしじゃなく、生活面も収入面でもきちんとしている人が現れて、マリアをしっかりと育ててもらったほうが良いだろうって。

 だって、マリアはわたしとは違う。特別な子供だから。素直で可愛い、心優しい子だから。
 だからきっと、神様がマリアのために素敵な人を――――未来を用意してくれるだろう――――そんな確信があった。

 だからこそ、絶対に深入りしちゃいけないって思っていた。

 マリアにとってわたしは同居人以外のなにものでもない。笑顔でさよならができる存在でなければいけないって。


 だけどわたしはあの子のことを――――マリアのことをずっと、自分の娘だと思っていた。

 大切で、可愛くて、誰よりも幸せになってほしいって思っていた。


「大丈夫ですよ。今回のことは、私達大人だけの胸にとどめておきましょう。それが一番、幸せだと思います」

「……うん。そうだね」


 浮かない顔をしたわたしを、セドリックがギュッと抱き締める。
 不安を胸に抱きつつ、わたしはなんとか自分を納得させたのだった。