「聖女?」

「ああ、聖女様! あなたこそが我が国の聖女、マリア様でいらっしゃいますね! お会いしたかった! さあ、私と一緒に神殿に参りましょう!」


 神官が勢いよく捲し立てる。見た目に寄らず、暑苦しい男だ。マリアがすっかり怯えてしまっている。


「ジャンヌさん……」

「あなたねぇ、いきなり『聖女』だとか『迎えに来た』とか言われても、混乱するに決まってるでしょう? 大体、名乗りもしないなんて無礼な男ね」

「――――っと、失礼。興奮して、ついつい取り乱してしまいました」


 男は居住まいを正し、もう一度恭しく頭を下げる。


「私はセドリック。主任神官を務めております。
昨日、神から聖女選別の託宣があり、こうしてマリア様をお迎えに上がったという次第です」

「マリアが聖女ねぇ」


 適当に付けた名前がいけなかったのだろうか? 首を傾げつつ、跪いたままの神官セドリックを見下ろす。


「それで? これからどうすれば良いわけ?」

「はい。マリア様にはこれから神殿で暮らしていただきます。もちろん、生活はしっかりと保障させていただきますし、身の安全も――――」

「ふふっ。神殿で? ふふふ、そりゃあ傑作だわ」

「――――――一体、何が可笑しいのですか?」


 セドリックは眉間に皺を寄せ、わたしのことを睨みつける。


「だってそうでしょう? わたしね、六年前にこの子を森の入り口で拾ったの。可哀そうに、おくるみに包まれたまま捨てられていてね。放置するわけにもいかず、神殿に連れて行ったの。保護してほしいって。そしたら何て言われたと思う? 『引き取れません』って。そう言って突き返されたのよ?」