「あの女性は? もう帰ったの?」

「ええ。丁重にお引取り願いました。騎士たちにも、決して神殿内に入れないよう、きつく申し伝えています」

「そう……良かった」


 もしも神殿内に忍び込まれてしまったら、わたしたちの知らないところで、マリアと遭遇してしまうかもしれない。わたしはセドリックにお礼を言った。


「明日以降も参拝客として紛れ込まないよう、目を光らせてもらいましょう。ピンク色の髪をした子連れの女性――――マリア様とそっくりの女の子は通さぬように、と」

「……そうですね」


 それが良い――――そう思っているのだけど、ほんの少しだけ心が揺れる。


「どうかしましたか?」


 セドリックは目敏かった。わたしが迷っているのを感じ取り、すぐに疑問を呈してくる。


「――――本当に、これで良いのでしょうか?」

「これで良い、とは?」

「実はさっき、あの人に言われたんです。『あの子だってきっと、血の繋がった本当の母親と一緒に居たいと思う筈です!』って」