「あんにゃ!」


 ペチペチと頬を叩くひんやりと冷たくて小さい手のひらの感触に、わたしはゆっくりと目を開けた。

 ふっくらと丸い頬、愛らしい大きな瞳。未だ生え揃っていない短い髪は、桜みたいに綺麗なピンク色をしている。


「マリア」


 小さなマリアはベッドにつかまり立ちをして、プルプルとおしりを震わせて、やがてぺたんと床に座り込んだ。チャレンジ精神旺盛で、同じことを何度も繰り返す愛らしいマリアの姿に、わたしはついつい苦笑を漏らす。


「ほら、こっちにおいで? 一緒にねんねしようか」


 わたしはそう言って、マリアのことを抱き上げた。
 体の上に乗っけても全然重くない――――っていうか、寧ろなんだか心地良い。ミルクの香りがする柔らかな頬に頬ずりをしながら、ポンポンと頭を撫でてやる。


「あぅんにゃ!」

「ん? ジャンヌさん、って言ってるの? 上手上手」


 ハッキリと発音はできていないけど、わたしを呼んでるんだってことはなんとなく伝わってくる。マリアは両手をバタつかせながら、何度も何度も「あんにゃ!」ってわたしのことを呼んだ。