広場は一時騒然としたものの、すぐに平穏を取り戻した。わたしとセドリックが、普段の数倍笑顔を振りまく等のサービスをしたからだ。

 事情を知らない他の神官たちも気を使って、普段よりも熱心に参拝客たちの話を聞いてくれている。おかげで、大きな混乱は避けられた。


(ホント、マリアの母親を見たときは焦ったけど)


 すぐに状況を察して動いてくれたセドリックに感謝しなきゃならない。だって、わたし一人じゃどうしたら良いか分からなかったもの。
 ものすごくテンパっていたし。マリアを神殿に帰して、参拝客たちを他の列に並ばせるなんて、絶対に思いつけなかった。

 だけどその時、わたしの列の最後尾にマリアそっくりの母娘を見つけて、わたしは密かに息を呑んだ。


(落ち着いて)


 あの人の顔なんて見たくない。話なんて聞きたくない。そんな想いから、心臓がバクバクと嫌な音を立てて鳴り響く。

 だけど、動揺したらダメだ。目の前の参拝客に対して失礼だし、怒りのあまり怒鳴ってしまうかもしれないもの。

 一人、また一人と参拝客を見送って、残すところあと二人――――マリアの母親とその娘が、わたしの目の前にやってきた。