「ねえ、セドリック。あの大きな建物はなにか知ってる?」


 ずっと甘々の雰囲気でいるなんてわたしにはとても耐えられない。適当に目についたものを指差し、話を逸らすことにする。


「ああ、あれは病院ですよ」

「え、病院?」


 この世界にもちゃんと存在していたの? ……って、そりゃ当たり前か。聖女不在の時とか、ないと困るもんね。そういえば、母の病気が酷くなったときは、父が街から医者を呼んでくれたんだっけ。


「気になるなら、少し中を覗いてみましょうか」


 セドリックはそう言って、わたしの手を優しく引いた。


「えぇ? だけど、患者でもないのに迷惑になりません?」

「平気ですよ。神殿からの視察と言えばいいですし、邪魔にならないようにすれば良いだけですから」


 正直気になるので、そう言ってくれると嬉しい。
 だけど、現世の病院って一体どんな感じだろう?
 恐る恐る中に入ってみたら、ホテルみたいに上品で高潔な空間が広がっていた。


「うわぁ……」


 これは決して感嘆の声ではない。むしろ逆。
 建物内の様子を見たら分かるけど、現世では一部の富裕層しか、満足に病院を利用できないのだ。