前世で当たり前のように与えられていた職業選択の自由がマリアには存在しない。お花屋さんやケーキ屋さん、コックさんや先生などなど、こんな仕事がしてみたいっていう夢を見ることすら許されないのだ。

 義務教育制度があって、子供の権利がしっかりと守られていて、高校や大学に行くっていう選択肢が用意されていて、努力次第でなんでもできる、なんにでもなれる――――あれってかなりすごいことで、恵まれていたんだなって今更ながら気付かされた。


「正直私は、聖女に選ばれた以上、人々に尽くすのが当たり前だと思って生きてきたのですが……」

「ええ、まあそうでしょうね。わたしの感覚がズレているってことは分かります」


 だって、洗脳用の絵本が存在するぐらいだし。そちらのほうが当たり前という価値観の世界なのだろう。マリアは生まれながらにして、そういう使命を与えられていたんだって。そう割り切るしかないって分かってるんだけど。