「実は、マリアが聖女に選ばれてから、ずっとモヤモヤしていたんです。あの子が神様から特別な能力を与えられたのは確かだけど、果たしてそれはあの子じゃなきゃできないことなのかなぁ? って」

「と、言いますと?」

「人を治癒することも、国を守ることも、飢えた人を助けることも、特別な能力が与えられなくても可能だとわたしは思っているんです。だから、聖女は居なくても良い――――居なくても国は成り立つんじゃないかなぁって」


 そうは言ったものの、前世があるわたしとセドリックじゃ、そもそもの価値観や感じ方が違うのは分かっている。わたしは昼間考えていた例え話を出しながら、聖女の存在しない国のあり方を説明した。


「なるほど。人々が力を合わせれば、豊かな国は作れる。それなのに、どうして聖女が必要なのか――――ということですね」

「ええ。聖女なんてポストがあるから、あの子はまだ六歳なのに、自分じゃなくて他人のために頑張らなきゃいけない。自由に遊ぶことも許されず、将来の夢も選べない。もしもマリアが大人だったら、こんなふうには思わなかったのかもしれませんけど……」