セドリックと一緒に神殿に戻り、マリアとカレーライスを作って食べた翌日のこと。
 朝の参拝客受け入れの時間に事件は起こった。


「ジャンヌちゃん!」


 参拝者たちの最前列で声を張り上げる一人の壮年男性の姿に、わたしは目眩を起こしかけた。

 上品になでつけられた金の髪に、鮮やかな緑の瞳。上等な黒の外套を纏った、紳士然とした男性だ。
 性別は違えども、目鼻立ちがわたしとシャーリーにそっくりよく似ている。


 それもその筈。
 彼は現世のわたしの父親、ブルックリン伯爵だ。


「……シャーリーに見つかった時点で、来るだろうなぁとは思っていたけど」


 まさかこんなに早いとは。
 父は今にも泣き出しそうな表情でわたしの手を握ると、ああ、と大きくため息を吐いた。


「当然だよ! 愛娘がいつの間にか王都に越していたことを、ずっと知らずにいたんだからね。実は、昨日もここに来たんだが、ジャンヌちゃんは休みだと言われて会えなかったんだ」

「え、昨日も来てたの?」


 相変わらず、貴族の割にフットワークが軽い。半ば感心、半ば呆れながら、わたしは目を丸くした。