「よくそんな物を思いつきますね? なるほど……どれもすごく便利そうです。是非とも使ってみたいですねぇ」

「便利なのは間違いありませんが、考えたのはわたしじゃありません。名前も知らない何処かの誰かです」


 この世界に生まれてから、わたしは前世が如何に文明の利器で溢れていたのか思い知った。
 スマホやパソコン、テレビは元より、電気も無ければガスも無い。水道だって通っていないから、雨水を溜めなきゃならないし、消毒や殺菌も満足にできない。車や電車だって存在しないし、アスファルトじゃないから歩きづらい。
 無いない尽くし。だけど、魔法があったら大抵のことは何とかできちゃう。本当に魔女に生まれて良かったと思う。


「そこの――――冷蔵庫? やシャワー、他の人にも教えても良いでしょうか? 知り合いに魔法使いが居るんです」

「お好きにどうぞ~~。どうせわたしが考えたものじゃありませんし」


 この男、商売でも始めるつもりだろうか? 上手く作ったら儲かるかもね。わたしからしたらどうでも良いけど。


 そんなこんなで、もう日が暮れるっていう時間になって、神官はようやく帰っていった。
 王都までは片道二時間。神官の癖に馬車じゃなくて馬に直接跨るらしい。


(本当に変な奴)


 後姿を見送りながら、二度と来るなと念を送る。
 だけど次の瞬間、彼はこちらを振り返り、ニコニコと朗らかな笑みを浮かべた。思わずウェッと胸焼けが襲う。


(今日はもうご飯は良いや)


 胃の中は空っぽだというのに、ちっとも食事をする気が起きなかった。