「上手ですね。どこかで練習してきたんですか?」


 神官様が尋ねてくる。
 気恥ずかしさのあまり、頬に熱が集まった。


「まさか。わたしが踊れるのはラジオ体操とかマイムマイムとか、そんぐらいですよ」

「ラジオ体操?」

「ええ。これが踊れないと、大人になれないってぐらい必須のダンスです。健康に良いらしいんで、今度教えてあげますよ」


 しっとりとした雰囲気が嫌で、チャラけた話題を必死に振る。
 だって、神官様が足を曲げ伸ばししてるところとか想像すると、笑えてくるもの。このぐらいの空気感がわたし達には丁度いい。ロマンティックなムードなんてお断りだ。


「それは楽しみです。……私はもっと貴女のことが知りたいですから」


 しかし、神官様は手強かった。わたしが作ろうとした空気感を無視し、熱い眼差しを向けてくる。


(どうしよう……)


 縋るような眼差し。
 ゴクリと息を呑み、視線をそっとそらす。

 逃げたい。
 だけど逃げられない。

 わたしはもう、神官様が苦しみを抱えていることを知っているから。


「少し、話をしませんか? ジャンヌ殿に聞いていただきたいことがあるんです」


 耳元でそんなふうに囁かれ、ビクッと身体が震える。
 けれど、神官様はいつものようなフザけた表情じゃない。至極真剣な顔つきをしている。

 気がついたら、神官様が導くままに、わたしは夜会会場を後にしていた。