ちょうどその時、マリアと王太子が最初の一曲を踊り終えた。会場中からワッと大きな拍手が湧く。
 わたしも拍手をしようとしたんだけど、できなかった。神官様が未だわたしの手をギュッと握っていたから。


「神官様」
「セドリック」

「――――セドリック、手を放してください。マリアに拍手を送らないと」


 短期間の練習で、こんなに大勢の人の前で踊らなきゃいけなかったんだもの。きっと相当なプレッシャーだったに違いない。

 運動会とか、学芸会とか、前世ではわたしもそれなりにイベントをこなしてきたけど、あれって結構練習期間があったし。数十人以上が同時にステージに立っていたから、失敗しても大して目立たなかった。っていうか、親は基本、自分の子供しか見ていないしね。

 だけど、マリアは今夜はじめて会った王太子とたった二人きり。会場中の視線を一身に集めて一曲を踊りきったんだもの。
 きちんと称賛されるべきだとわたしは思う。


「仕方がありませんね」


 神官様はそう言って、渋々わたしを解放してくれた。
 

(良かった。分かってもらえた)


 けれど、ホッとしたのも束の間、神官様はわたしの背後へと回り込んだ。ピタリと身体が密着する。その上、腰のあたりをギュッと抱きしめられてしまった。