『あの方が最初に神殿にいらっしゃった頃は、まだマリア様ぐらいの大きさでね? 神様みたいに人間離れした美しい少年だったの。 だけど、今とは違ってちっとも笑わない、とても冷たいお方でね?』


 はじめて神官見習いとして参拝者たちの前に立ったあの日、おばあさんから聞いた話が、わたしの脳裏に蘇ってくる。

 王族なのに幼いうちに城を追われた――――少なくとも神官様はそんなふうに感じたのだろう。

 彼がどんな半生を送ってきたか、わたしは知らない。
 彼の置かれた環境や想いを、本当の意味で理解できるとも思えない。

 けれど、神官様は辛かったのだろう。

 ――――ううん、きっと過去形じゃない。彼は人知れず、ずっと苦しみ続けていたのだろう。
 底抜けに明るい笑顔の下に、本当の感情を押し隠して。


「――――セドリック」


 神官様の名前を呼ぶ。
 とても小さな声だったけど、彼の耳に、わたしの声はちゃんと届いたらしい。


「はい」

「――セドリック」

「はい!」


 神官様は瞳を潤ませ、それから嬉しそうに目を細めた。