「では、たぶらかしたも何も、伯爵様がジャンヌ殿のお母様を見初めたのは、貴女の母君と結婚する前ということになりますね。
貴女のお母様と婚約をなさったのは、結婚の直前だったと記憶していますし、シャーリー嬢にとやかく言われる理由はない筈です」

「ですが! そもそも身分が違いますし、ジャンヌの母親が父を惑わせたのは確かで――――」

「私の母も身分違いで……しかも既婚で、既に子供までいる父に見初められて私を身ごもったのですが、それが何か?」


 ヒッ! とシャーリーが息を呑む。わたしは大きなため息を吐いた。


(諦めなよ。わたしだって神官様に勝てる見込みはないんだから)


 息が詰まりそうなほどの沈黙が横たわる。
 シャーリーは青褪めた顔で、何度も神官様とわたしを見遣りつつ、口を大きく開閉している。

 それからたっぷり数十秒。
 ようやく蚊の泣くような「申し訳ございませんでした」の言葉が聞こえてきて、神官様はニコリと笑った。