「ええ……わたしは母が好きでした」


 捻くれ者のわたしに対しても愛情をたっぷり注いでくれた優しい人。
 あの人が母親だったからこそ、前世で失恋してずたぼろの精神を引きずっていても、わたしは命を投げ出してこなかったし、今も生きているんだと思う。


「良かった。貴女にもちゃんと、甘えられる人がいたんですね」


 蕩けるような甘い笑みを浮かべ、神官様が言う。


「いますよ。過去形ですけどね」


 亡くなった人は戻ってこない。そうと分かっていても、やっぱりわたしは悲しかった。


「大丈夫。今は私がいます。マリア様もいます。そうでしょう?」

「……あなたはまた、そういうことを言う。そういうこと、誰にでもホイホイ言うもんじゃありませんよ」


 神官様といるとペースが乱れる。最近涙もろくなってしまったし、自分が自分じゃなくなったみたいですごく嫌だ。


「またまた! ジャンヌ殿も知ってるでしょう? 私、塩対応ってことで結構有名なんですよ! こんなこと、ジャンヌ殿にしか言ってません」

「塩対応……物は言いようですね」