「…さっき、凪が泣いてたって言ってたな。あれはどういう意味だ」


茶髪の派手な人が私を一瞥したあと、「その子が、」と言いながら再び、桜木さんの方を見た。



「一昨日、その子が俺らの高校に来たんだよ。那月に会いに」

「…あいつに?」


少し桜木さんは、顔を傾けた。


「ああ…、その、日記に那月のことを書いてあったみたいで。それを頼りに…って感じだった。パニクってたっつーか、那月の事しか頼れないって感じでボロボロ泣いて…」

「…もう少し詳しく教えてほしい、その後のことも」

「いや、マジで俺そこから知らねぇ。那月がその子を送るからって別れたし」

「別れた?」

「ああ、昨日、那月の家に行った時その子が持ってたファイルがあって…。なぁ?」


茶髪の人が、明るい髪をした人に聞けば、「そうだな」とぶっきらぼうに答えた。


「…分かった、あいつ今どこにいる?」

「さあ、んでも朝まで先輩たちと遊んでたみたいだし、家で寝てると思う」

「そうか、」

「電話しようか?」

「いや、家に行くわ。ありがとうな教えてくれて」


もう話は終わりなのか、桜木さんは私の手を握りしめると、ゆっくりと歩き出した。
最後に彼らを見ると、茶髪の人は眉を下げずっと申し訳ない顔をしていた。


しばらく歩いていると、もう2人の姿は見えなくなった。何かを考えているらしい桜木さんは、あまり口を開かなくて。


「…やっぱり…、知っている人ですか?」


私がそう聞くと、桜木さんは私の方を向いた。桜木さんは少し言い辛そうにすると、「いや、初めて喋った…」と、ぽつりと呟いた。


「でも、私のことを知っているような…感じでした…」

「うん、一昨日の凪があいつらに会ったらしい」


一昨日?
あの人たちと?
覚えていない。


「……あそこまで歩いたのか…。だから足、あんなにもケガしてたのか…」


独り言のように呟いた桜木さん…。


「会っていたんですか…?」

「うん、いろいろあったみたいだ」


私に微笑む桜木さんは、「……藤沢のやつ…」と、なんだが怒っている様子だった。


──…ふじさわ?


藤沢って、さっき会話で出てきてた〝那月〟っていう人だろうか?


とあるマンションにつくと、桜木さんはエレベーターに乗り込み、とある階のボタンを押した。
なんだかさっきとは違い、少しだけ怖い雰囲気になった桜木さんに「もう少し一緒にいたい」って言えなくて。


「もうすぐ、家なのですよね」

「うん」

「私…、これからもあなたに会えますか?」


もっと喋りたい…。


「会えるよ、明日も明後日もずっと。俺が毎日凪に会いに来るから、会わない日は絶対ない」


そう言った桜木さんが、私を部屋の前まで送った。病院であった女の人…お母さんと名乗る人がその部屋から出てきて、桜木さんは私をその人に渡した。


「また夜に来る」


その言葉を残して。