桜木さんと半分こしたハンバーグのランチを食べて、桜木さんが「そろそろ行こうか」と呟いた。
それに対して頷き、桜木さんが手を差し出してきて、その差し出された手を拒絶することなく私は手を置いた。

そのまま握られ、伝票を手にした桜木さんが、レジのある方へと向かう。私よりも背の高い桜木さん。
私を虐めた過去があるけど、今では大切にしてくれている桜木さんはレジで並んでいる最中、「外、結構暑そうだし、タクシー呼ぶ?」と私の心配をする。


「大丈夫です」


そう返事した私は、桜木さんに少し笑いかけた。そうすれば桜木さんも笑った。


「やっぱり凪は1番かわいい」


と、そんな言葉とともに。


休憩したからか、それほど夏空の下、歩くことに苦はならなかった。とある駅につき、切符を購入した桜木さんにお礼を告げた。

電車の中は冷房がきいていて、涼しかった。
3駅ほど乗り、手を繋いだまま桜木さんと電車をおりた。


「凪?」

「はい」

「ここから15分ぐらい歩くけど大丈夫そう?」

「はい、大丈夫です。疲れたらすぐに言いますね」


穏やかに笑った桜木さんは、そのまま足を進めた。駅の改札をくぐり、駅の中を歩く。
ここから15分の距離に、私が住む家があるらしい。
ということは、あと15分ほどしか桜木さんと一緒にいれないってことだろうか?
もっともっと話したいことがあるのに。
そばにいたい…。

そう思って、「時間があるなら、少しでいいので遠回りしたいです、」と桜木さんを見上げを口を開こうとした時だった。


「あっ、この前の、なぁ、あいつらこの前の2人だよな!」


と、その声が聞こえたのは。
駅から外に出て、太陽が私たちを再び迎えた時、視界の中に駅のロータリーでバイクに跨っている男性が2人いて、そのうちの1人が私たちの方に指をさしていた。

指をさしているのは、明るい髪色をした男だった。風貌もとても騒がしそうで、黒髪でシンプルなスタイルの桜木さんとは大違いで。


「那月の知り合いと、すぐ忘れる女だろ!」


指をさされ、そんな言葉を大声で言われ、すぐに私の事だと気づき、──私の心に不快感が芽生えた。

なんだろう、あの人は。
そう思っていると私は自分の下唇を噛んでいた。

思わず、桜木さんの手を強く握った。桜木さんの方を見れば、自分の体が固まったのが分かった。
いつも優しい笑みを浮かべていた桜木さんが、その男の人、2人の方をすごく怖い顔で見ていたから。
──睨む、ううん、それ以上の──…。


「…お知り合いですか?」


静かに告げれば、桜木さんは私の方へと向き直し、「全く。無視していい」と笑った。そのまま歩き出そうとする桜木さんについていこうとすれば、


「なんで無視すんの〜、おーい」


と、面白そうな声が聞こえた。



「おいっ、やめろよ。あの子はそんなからかっていい子じゃないから」

「はあ?」

「この前、めちゃくちゃ泣いてたって言っただろ!」


そうもう一人の男、茶髪の人がそういった時、ピタリと桜木さんの足が止まった。


「知るかよ、な〜!見たぞ〜!その子の日記!お前もいろいろ大変だな〜」


止まった足は、完全に男達2人に向けられていた。怖い顔のまま、私の手を引き、どうしてかその2人の…知り合いか分からない方へと足を進める桜木さん…。


いったい、何があったのか。


「やめろってマジで!からかうな!」


茶髪の人が、明るい髪の男に注意するけど、明るい髪の男の方は、ずっとずっと楽しそうな顔のまま。


「──…どういう事だ、なんで凪の日記の事をお前たちが知ってる」


そう聞いた、桜木さんの声は低い。


「は?んなもん、那月の部屋にあったからだろ?」

「おいっ!」

「──…那月?」


低く、〝那月〟と言った桜木さんの目は、本当に怖く。声のトーンも今までとは全く違い。


「教えろ。今すぐ」

「はあ?」

「てめぇには聞いてねぇ、凪の日記、あいつが持ってんのか」



注意をしていた茶髪の人が、眉を下げ、申し訳なさそうに「……家に…あった、…でも、今は分からない」と、首を横にふった。


いったい、なんの話しをしているのか。