私は本当に、この気持ちも、忘れてしまうの?


〝生物〟の授業の内容があまりよく分からなかった。特定の専門用語を使い、今は血液型の話をしているらしいけど、〝優性〟とか〝劣性〟聞いたことの無い言葉で説明する。

私は困った顔をしていなかった。それなのにガタ…っていう音が隣から聞こえたと思ったら、潮くんが机ごと私に近づいてきて。

ピッタリと机が寄せられる。


「どこが分からない?」


周りに迷惑がかからないよう小声で呟く潮くん…。


「…あの、」

「うん」

「あんまり、わかっていないです…」

「血液型は分かる?」

「はい…」

「血液型には4種類あるのは?」

「…それは、なんとなく分かります」

「なんとなく?」

「血液型の話をしてるなぁって。でも、それだけで、先生が何を言っているのか分からないです…」

「分かった、じゃあそこからな」



潮くんは優しく説明してくれた。
〝優性〟を〝優先的に〟と言ったり、私に分かりやすく教えてくれて。
潮くんいわく、今、先生の授業は、親の血液型から生まれてくる子供の血液型の種類の話をしているらしい。


説明してくれる潮くんを見つめた。
潮くんが私に説明している教室内も、先生も、慣れている様子だった。


私は…この光景も、忘れてしまうのだろうか?
潮くんは教えても無駄だって思わないのだろうか?
だって、この血液型の話も、明日には忘れて…。



「…わからなくてごめんなさい……」


内容を理解したあと、優しい彼に呟けば、潮くんは私の顔を見て、ゆっくり頭を撫でながら微笑んだ。


「あの先生、いつも説明へたなんだよ。みんな分かってないから大丈夫」


こっそりと耳打ちして、私をサポートしてくれる潮くん。チャイムが鳴り授業が終わって、教科書の中に教科書を入れた。


「凪、食堂いこ。腹減ったわ」


今からお昼ご飯の時間らしい。潮くんに手を差し出され、自然とその手に自身の手のひらを置いた。
大切そうに柔らかく握られ、私はこの人が本当に大好きだって思った…。


本当に…忘れちゃうの?


食堂らしいところで、おにぎりとパンを買った。潮くんがこの中で選ぶとか教えてくれて。食堂で働いていた年配の女性に「今日も仲良しねぇ」と言われた。


「食堂、人多いから外で食べよ」


潮くんに頷き、連れてきて貰った場所は、中庭らしい場所にある外の階段だった。
ちょうど日陰になっていて、あまり暑くはなく。


「午後の授業もいけそう?」

「はい」

「なら良かった」

「…ほんとうにごめんなさい、私…」

「なんで謝る?当然の事って言っただろ?」

「迷惑を…、だって、それに、」

「迷惑とか考えなくていい、絶対思わないでほしい。俺がしたくてしてるんだから」

「でも…」

「凪」

「…疲れませんか?」

「疲れるとか考えたことないよ」

「いつも私、潮くんに迷惑を…助けてもらっているんですね」

「凪?」

「いつも……助けてもらっているのに、私…されを忘れているんですね…」

「違う、そういう考えはしなくていい。俺がしたいんだよ、俺が凪を好きだからしてる事なんだ」

「でも、…明日になれば、今日のことを忘れちゃう…。なのに教えてくれる…。無駄なことかもしれないのに…」

「俺がしたくてしてる、俺が凪と関わりたいから。こうして喋ることも、無駄じゃないし俺にとっては嬉しい」

「……潮くん」

「だからそんな泣きそうな顔しなくていい」



潮くんの手が、私の頬にふれた。