自転車で20分ほどで、その学校についた。ついたけどあまり生徒がいなく。敷地内の駐輪場に自転車を停めた潮くんに「誰もいないですね」って言ってみた。
「今は授業中だからな」
もう授業が始まっているらしい。
潮くんに手をひかれ、校舎内に入り、上靴に履き替えた。その上靴には〝さわだ〟と書かれていた。
「一応遅刻になるから、生徒指導室に寄らねぇと。足、大丈夫か?」
「足は大丈夫です。遅刻したら、その場所に行かないといけないのですか?」
「そう。遅刻届けを貰わないといけねぇから」
よく分からないけど、そういう学校のシステムらしく。生徒指導室という部屋に入り、潮くんは慣れたように、先生らしい人が渡してきた紙に〝桜木潮〟と書いた。
そして〝澤田凪〟と続けて書いた。
遅刻理由のところには〝私用〟と書いていた。
生徒指導室の中でも潮くんは私の手を離さなかった。遅刻届けと書かれた紙を持ち、生徒指導室から出てもその手は離れず。
朝、手を繋ぐ事を〝くせ〟って言っていたことを思い出していた。きっといつも潮くんはこんなふうに手を繋いでくれているんだろう。
とある教室の前で、「ちょっと待ってな、先生に渡してくる」と、手をそっと離された。
教室の中に入っていく潮くんの後ろ姿を見たあと、私は自分の掌を見た。
初めて会った彼なのに、手を離される事がとても寂しく感じた。
すぐに私の所へ戻ってきた潮くんは、「後ろから入ろう」と、また私の手を握ると、教室の後ろの方の扉へと向かった。
中には、授業を受けている人がいた。
潮くんがいるからか、あまり緊張したりはしなくて。扉のそば…。廊下側の、後ろの2席が空いていて。そこの1列目の方に私の手をひくと、「ここが凪の席」と潮くんは小さな声で言った。
1番端っこらしい。
その横に座った潮くんは、私が席に座ったことを確認すると「今は現国、机の中にあると思うから探して」と私に言ってきた。
現国…?
私には〝現国〟が分からなかった。
分からなくて顔を傾けると、「この教科書」と、潮くんが紫色メインの教科書を見せてくれた。
言われた通りに探している最中、潮くんは、私ではない隣の席に座る男子生徒に「何ページ?」と聞いていた。
私の席にあった、みんなが使っているのと同じ〝現国〟の教科書を開く。潮くんが「25ページな」と小さく呟き。
25ページ…と、パラパラと教科書を開いてみる。中身を見る限り、物語が多く書かれているこれは〝国語〟じゃないのかな?って思ったけど。〝国語〟じゃないらしい。
もしかしたら私が知らないだけで違う言い方があるのかもしれない。
先生らしい年配の男性が、25ページに書かれている物語を音読する。
その教科書は、難しい漢字…というよりも、読めない漢字が多くあった。
正直、読むことが出来なかった。
記憶がない私は、簡単な漢字しか覚えていないようで。
──それでも、今、授業でやっている物語を目で追うことが出来たのは、その漢字にはふりがなが全て書かれていたから。──手書きで。
ぱらぱらとページをめくる。
どこをめくっても、漢字にはふりがなが書かれている。
それは最後まで、ふりがなが、漢字の横に書かれていた。
チャイムがなり、授業が終わり、潮くんは私の方に体を向けた。
「大丈夫だった?」
「はい、ふりがながあって。読めました。これは誰が書いたんですか?」
「ああ、俺。読めた?俺字汚いから」
「あの、…潮くんが全部ですか?」
「うん、ちゃんと調べたから、合ってると思う」
「私が読めないから、ふりがなを…?」
「ああ」
だって…これ、本当に全部の漢字にふりがながあるんだよ?いったい、どれだけの時間がかかるか。
まさか、と思った。
次の授業で使う、理科じゃなくて〝生物〟の教科書を開いてみた。
そこにも説明文に全て、ふりがながあって…。
さっき見た潮くんの字だった。
きっと、どの教科書にも、ふりがなはあるんだろう。そんな気がする。
「潮、久しぶりじゃん!」
隣で、潮くんが知らない男子生徒に話しかけられていた。たぶん、友達らしい。潮くんは笑って返答していた。
そんな潮くんを見て、私は泣きそうになった。私は本当に愛されて、大事にされているんだなぁって…。
「今は授業中だからな」
もう授業が始まっているらしい。
潮くんに手をひかれ、校舎内に入り、上靴に履き替えた。その上靴には〝さわだ〟と書かれていた。
「一応遅刻になるから、生徒指導室に寄らねぇと。足、大丈夫か?」
「足は大丈夫です。遅刻したら、その場所に行かないといけないのですか?」
「そう。遅刻届けを貰わないといけねぇから」
よく分からないけど、そういう学校のシステムらしく。生徒指導室という部屋に入り、潮くんは慣れたように、先生らしい人が渡してきた紙に〝桜木潮〟と書いた。
そして〝澤田凪〟と続けて書いた。
遅刻理由のところには〝私用〟と書いていた。
生徒指導室の中でも潮くんは私の手を離さなかった。遅刻届けと書かれた紙を持ち、生徒指導室から出てもその手は離れず。
朝、手を繋ぐ事を〝くせ〟って言っていたことを思い出していた。きっといつも潮くんはこんなふうに手を繋いでくれているんだろう。
とある教室の前で、「ちょっと待ってな、先生に渡してくる」と、手をそっと離された。
教室の中に入っていく潮くんの後ろ姿を見たあと、私は自分の掌を見た。
初めて会った彼なのに、手を離される事がとても寂しく感じた。
すぐに私の所へ戻ってきた潮くんは、「後ろから入ろう」と、また私の手を握ると、教室の後ろの方の扉へと向かった。
中には、授業を受けている人がいた。
潮くんがいるからか、あまり緊張したりはしなくて。扉のそば…。廊下側の、後ろの2席が空いていて。そこの1列目の方に私の手をひくと、「ここが凪の席」と潮くんは小さな声で言った。
1番端っこらしい。
その横に座った潮くんは、私が席に座ったことを確認すると「今は現国、机の中にあると思うから探して」と私に言ってきた。
現国…?
私には〝現国〟が分からなかった。
分からなくて顔を傾けると、「この教科書」と、潮くんが紫色メインの教科書を見せてくれた。
言われた通りに探している最中、潮くんは、私ではない隣の席に座る男子生徒に「何ページ?」と聞いていた。
私の席にあった、みんなが使っているのと同じ〝現国〟の教科書を開く。潮くんが「25ページな」と小さく呟き。
25ページ…と、パラパラと教科書を開いてみる。中身を見る限り、物語が多く書かれているこれは〝国語〟じゃないのかな?って思ったけど。〝国語〟じゃないらしい。
もしかしたら私が知らないだけで違う言い方があるのかもしれない。
先生らしい年配の男性が、25ページに書かれている物語を音読する。
その教科書は、難しい漢字…というよりも、読めない漢字が多くあった。
正直、読むことが出来なかった。
記憶がない私は、簡単な漢字しか覚えていないようで。
──それでも、今、授業でやっている物語を目で追うことが出来たのは、その漢字にはふりがなが全て書かれていたから。──手書きで。
ぱらぱらとページをめくる。
どこをめくっても、漢字にはふりがなが書かれている。
それは最後まで、ふりがなが、漢字の横に書かれていた。
チャイムがなり、授業が終わり、潮くんは私の方に体を向けた。
「大丈夫だった?」
「はい、ふりがながあって。読めました。これは誰が書いたんですか?」
「ああ、俺。読めた?俺字汚いから」
「あの、…潮くんが全部ですか?」
「うん、ちゃんと調べたから、合ってると思う」
「私が読めないから、ふりがなを…?」
「ああ」
だって…これ、本当に全部の漢字にふりがながあるんだよ?いったい、どれだけの時間がかかるか。
まさか、と思った。
次の授業で使う、理科じゃなくて〝生物〟の教科書を開いてみた。
そこにも説明文に全て、ふりがながあって…。
さっき見た潮くんの字だった。
きっと、どの教科書にも、ふりがなはあるんだろう。そんな気がする。
「潮、久しぶりじゃん!」
隣で、潮くんが知らない男子生徒に話しかけられていた。たぶん、友達らしい。潮くんは笑って返答していた。
そんな潮くんを見て、私は泣きそうになった。私は本当に愛されて、大事にされているんだなぁって…。



