記憶喪失?
自分の名前も分からなくなる?
なにが?


「……どういう意味ですか?」

「どういう意味ってそのまんまだろ」


心のこもっていない、バカにしたような笑みを浮かべるその人。


「そのまま…?」

「澤田凪はお前だよ」

「え?」

「お前」

「あの…」

「お前さ、記憶喪失なんだよ」

「…何を言ってるんですか?」

「1回寝ると、何もかも忘れる病気」


──1回寝ると、何もかも忘れる病気?


「え…、わたしが、?」

「そう」

「寝ると、忘れる?」

「……」

「そんなはずない…、」

「今もう忘れてるだろ?」

「私は〝澤田凪〟じゃありません…」

「いや、本当だし」

「だって、こんな〝体〟知らないっ!」


駅のホームで大声を出せば、私たち以外の電車待ちをしている人が、何人か振り向いた。

だけど、私はそれどころじゃなくて。


「うるせー声出すなよ」

「だ、って…」

「……地元はみんな知ってる」

「……え?」

「お前はなんも覚えらんねぇバカだってな」