その日の夜、私は日記を見返した。
読む限り、やっぱり潮くんは私を大切にしてくれる存在なんだと思った。
本当にそれしか書いていなかった。
学校が楽しいとか、全くそんなことは書かれていなくて。

〝潮くん〟しか書かれていない。
別れる間際の潮くんの顔を思い出す。
あんな顔をさせてしまって、本当に申し訳なくて…。


──…だけど、日記の中で、気になる文を見つけた。



〝令和元年5月28日
潮くんの知り合いとあった
私の事も知ってるみたいだった

私は潮くんを信じようと思う
だからここには書かない〟



これは、なんだろう。
潮くんの知り合いと会ったらしい。
私の事を知ってたらしい。
信じよう、ここには書かない。
この日の私は、いったい何を信じようと思ったのか。
知り合いと書かれていて、思い出すのはさっきの彼だった。藤沢那月という男。



息を飲み、私は今日のページのところを開いた。


──〝令和2年7月15日〟


机の上にあったシャーペンで、今日の日付を書いてみた。昨日の字と見比べる限り、筆跡は似ていて、今までの日記は全て私が書いたものだと認識し。


〝今日あったことを明日になれば全て忘れてしまう記憶の病気らしい。
令和7月16日の私へ
とまどう気持ちは分かりますが、この日記を全て読んでください〟


〝私には潮くんという彼氏がいます。だけど、私は今、潮くんを信じることができません。でも潮くんは優しい。潮くんを傷つけたくない。それでも疑ってしまう。どうすればいいか分からない〟


〝明日の私へ、お願いです。
明日、藤沢那月という男を訪ねてほしい
その人のことはカッターシャツと紺色のズボンの制服という事しか分かりません。潮くんのことを聞いてください。お願いします〟



潮くんは言っていた。
この私の脳の記憶は、治らない方がいいと。


それは私を虐めていたことと関係しているのだろうか…。