「私は……。私は、聖女が不要かどうかは、国民のみなさんが決めれば良いと思っています」
 静まり返った場に、私の声は遠くまで響いた。
 少しの間をおいて、
「マリア様! 何てことを……!」
 元使用人たちは、涙を流しながら、膝から崩れ落ちた。
「どうしてそう思われるのですか?」
 トーマスが私に問うた。
「はい。今の聖女――私の母は、国民の敬愛を完全に失っています。残念なことですが、今後、母が国民からの信頼を回復することはできないでしょう」
 場がざわつき始めたが、私はそのまま続けた。
「聖女は普通の人間です。奇跡を起こすことできませんし、魔法を使うこともできません。単なる信仰の対象でしかありません」
 ざわめきがさらに大きくなった。
「ほう。これは興味深い。次期聖女としてお育ちになったあなたが、聖女を否定するかのようなことをおっしゃるとは。詳しくお聞かせ願えませんか?」
「私にとって、宮殿での生活が全てでした。聖女が祈りを捧げることで国全体が幸せになると本気で思っていましたし、自分が将来聖女になることに何の疑問も抱いていませんでした。
 しかし、一歩宮殿の外に出てみて初めて気が付きました。私は銀の匙をくわえて生まれてきたのだと……!」