「マリアを追放した時点で、貴女とマリアは親子ではなくなったのです。したがって――」
「だから父親の方から許しをもらったってことね……」
 母は、結婚許可証に書かれている父のサインを、忌々しげに見つめていた。
「話が早くて助かります」
「何て憎たらしい……!」
 勝ち誇った笑みを浮かべるフィリップの姿は、母にとって屈辱的だったに違いない。 
 それにもう母には、私たちの結婚に反対する理由を見つけられなかった。


「大変です! 町で暴動が起きました! 現在、宮殿に向かっています!」
「何ですって……!」
 突然、勢いよく扉が開かれ、私たちは弾かれたように、声がした方向へ視線を向けた。
 恐れていたことが起きてしまった。
「さっさと軍を向かわせなさい!」
 フィリップとのやり取りで、相当、怒りが蓄積していたのだろう。母はかなり苛立っていた。
「あの……」
 報せを持ってきた者が、立ち去ろうとしている母を止めた。
「まだ何かあるの?」
 ますます不機嫌さを増した母に躊躇しながら、
「民衆は、薬をタダで寄越せと口々に叫んでいるそうです……」
 と声を震わせながら伝えた。
「薬……?」
「ええ、何でもある町で薬が無料で配られたようで――」
 そこまで聞いくと、母はものすごい勢いで私の前にやってきて、私の胸倉を掴み、そのまま激しく揺さぶった。
「マリア! お前という子は、余計なことばかりして!」
 フィリップが止めに入ると、母は私を突き飛ばすようにして手を放し、その反動で私は床に叩きつけられた。
「私が暴動を止めに行きます!」
 思わず口を突いて出た言葉だった。