「夫ですって……!」
 フィリップに向き直った母の顔は、鬼の形相であった。
「ええ、私とマリアは結婚したのです」
 フィリップは、母に対して一歩も引かない。
「結婚? そんなことは一言も聞いていない!」
 母は私たちをキッと睨みつけた。
「はい。本日はそのご報告も兼ねて――」
「聖女であり、母親でもある私の許可も得ず、勝手に決めるなんて! そもそも、親の許可もなく結婚できるわけないでしょう!」
「許可ならここに――」
 怒りのあまり大声で怒鳴り散らしている母に負けじと、フィリップが声を張り上げた。


 フィリップが母に突き付けたのは、<結婚許可証>であった。
「こんなもの……こうしてやる!」
 母が、結婚許可証を二つに裂こうとしたまさにその時、
「おやめください!」
 と何人かの大臣が飛び出し、母の手から結婚許可証を奪い取った。
「返しなさい!」
「それはできません。これは国の正式な書類。破り捨てようものなら外交問題に発展し兼ねません!」
「その通りです。もしその結婚許可証を破棄しようものなら、我が国に対し、敵意ありと看做します!」
 力の差は明らかだ。圧倒的な軍事力を持って攻め込まれたら、この国は終わる。母は力なくその場に崩れ落ち、その場にいた全員が凍り付いたように動かなくなった。
「マリアは私の娘なのよ……母親の私を差し置いて、こんなことが許されるはずがない……」
「お言葉ですが……先にマリアを追放――捨てたのは、貴女では?」