「フィリップ殿下も遠路はるばるご苦労様でした」
 私とフィリップは、ついに母と対峙した。
 母の言葉の端々には、フィリップを下に見るような態度が垣間見えた。
「さあ、マリア。あなたはもう下がりなさい」
 すると、母の側に仕えていた一人の女性が、私の隣にやってきた。
「どうぞこちらへ……」
 見たことのない顔だった。この女性だけではない。宮殿の敷地内に入ってから、私の知らない顔が増えていた。メアリのように辞めさせられたのか、それとも、自分から辞めたのか……。


「お待ちください。マリアをどこへ連れて行くおつもりですか?」
 フィリップが割って入ってきた。
「どこって……、ここから先は私たちの、我が国の問題です。部外者である殿下には関係のないことです」
 話は終わったと言わんばかりに、母も立ち上がろうとしていた。
「お待ちください」
 フィリップは、再び母を引き留めた。
「私は部外者ではありません。私はマリアの夫です。そして、ゆくゆくマリアは我が国の王妃になる者です」