「先ほどはどうもありがとうございました。助かりました」
 馬車の中で私はフィリップに礼を述べた。
「いえ……それより、あなたの方こそ大丈夫ですか?」
 フィリップは、逆に私を気遣った。
「正直言うと、あそこまでひどい状況になっているとは予想外でした……」
 私が母の元に戻ることで、状況が今よりはましになるかとほのかな期待を抱いていたが、それは間違いだったらしい。
「あなたにお見せしようかどうか迷っていたのですが……やはりお見せすることにします」
 そう言ってフィリップは私に、紙の束を渡した――その表紙には、<調査報告>と書かれていた。


 調査報告には、フィリップが言っていた母の<お振舞い>についての詳細が書かれていた。
 母は完全に現在の夫とカタリナの言いなりになっており、欲しがる物をすべて買い与えているという。そして、さらに困ったことに、現夫の親族を呼び寄せ、彼らを要職に就け、法外な報酬を支払っているとのことだった。
 紙をめくるたびに手の震えが酷くなる。それでも何とか全てに目を通した。
 そんな私の様子を、フィリップは心配そうに見つめ、手の震えを止めるかのようにそっと手を握ってくれた。


 そうこうしているうちに、私たちを乗せた馬車は、聖女の宮殿の敷地内に入っていた。
 血の繋がった母ということもあり、母には散々感情を揺さぶられてきたが、とうとう決着をつけるときが来たようだ。