「この薬を持っていって下さい。そして、もし、流行り病で苦しんでいる人がいたら、飲ませてあげてください!」
 私は、ロザリーだけではなく、周囲にいた人々にも声をかけた。
 しかし、誰も私に声をかけてこない。それどころか、遠巻きに私を眺めている。
 聖女の関係者である私を見る人々の視線は、冷たい。
 物を投げつけられたり、罵声を浴びせられたりはしなかったが、誰も私に近づいて来る気配はなかった。だが、私はいつの間にか人々に取り囲まれていた。
 しばらくはお互い無言の状態が続いた。
 すると、私の足元に一枚の紙切れが投げ込まれた。まるで私に<見ろ>と言っているようだ。
「……」
 私はしゃがみ込んで紙切れを拾い、目を通した。
 それは風刺画だった。
 国民に重荷を背負わせ、贅沢をしている母と、追い出された父と私が描かれている。
 私は、聖女と国民の関係が絶望的であると思い知らされた。
 
 
 なかなか人々との距離を縮められない私の様子を見兼ねたフィリップが、馬車から降りて来た。
 フィリップは、自分の身分を明かし、怪しい薬ではないこと、自分もこの薬を飲んで命が助かったと説明した。最後に、みんなの前で薬を一粒飲んでみせた。
 すると、遠巻きに見ていた人たちが一斉に、薬を求めて押し寄せ、薬はあっという間になくなった。