村人たちの全面的な協力により、国中に流行り病の薬を届けることができた。
 これでこの国は、流行り病の脅威から逃れられたと言ってもいい。


 ある日、私は村の老人にこう言われた。
「マリアさん、あんたはまるで隣の国の聖女様みたいだね。あんたがこの村に来てくれたおかげで、誰も流行り病で死なずに済んだ。それどころか、仕事までもってきてくれた。そう言えば、あんたは隣の国の出身だったね……聖女様はきっと、あんたみたいなお方なんだろうね。いや、私らにとっては、あんたこそが聖女だよ」
 老人はそう語りながら、目を潤ませている。
「聖女だなんて……今もこれからも私は<森の魔女>よ、いえ、薬学の知識が多少あるただの人間だわ」
 もう私は、聖女とは関係ない世界で生きていくのだから――。


「あの薬のおかげで、流行り病で命を落とす人はいなくなりました。本当に何とお礼を言っていいか……」
 フィリップが、報告を兼ねて私を訪ねてきた。
 偶然の出来事ではあったが、私の作った薬が、多くの人の命を救うことができたことを、私は素直に嬉しいと思った。
「一仕事終えたばかりなのに、このようなことをお願いするのは大変気が引けるのですが……またあの薬を作っていただきたいのです」
「予備の分でしょうか……?」
「いえ、隣国に渡す分です」
 もう二度と関わることのないと思っていた祖国と、このような形で再び関わることになるとは思ってもみなかった。